彼女を見送った私と息子は、主が急にいなくなった違和感を覚えながら寝室に戻った。時計の針は真夜中を遥かにに廻っていたが、その時の私達にとっては時間などどうでも良かった。それは明日までに彼女の棺に入れてやるものを選別し、遺体安置所に持っていかねばならなかったのである。それはいわば彼女にとってのスーツケースであった。彼岸への旅の途中で何が必要なのか、向こうへ行ってからいつもどういったものを所有していたいのか、私達は一つ一つを丁寧に吟味し、一覧表にした。
(01) 私のカウボーイ姿の写真
(02) 息子の最近の写真
(03) 息子の大学卒業の写真(この時の彼女の喜びは尋常ではなかった。)
(04) 日本に住む愛娘の写真
(05) 愛犬トラの写真(旅の道中も向こうへ行ってから彼が彼女を守ってくれる。)
(06) 日頃使っていた化粧品や香水やその小道具
(07) 愛用していたネックレスとかブレスレット
(08) 彼女方の全員の家族写真
(09) 私方の全員の家族写真
(10) デザイナーである愛娘の手造りのお守り
(11) 路銀や向こうでの生活費としての$1ドル銀貨
(12) 日本の最良の友が作った絵暦
(13) 富士山の写真(日本を日本人を愛した彼女にとっての象徴)
(14) 私の故郷伊良湖岬の写真(彼女が世界で最も美しいと絶賛、愛した所)
(15) テキサスの州旗(夢を実現させ終の棲家となったところ)
(16) 牧場の航空写真(彼女と私が結実させた大事な花であり桃源郷)
(17) 彼女が誇り愛した父親の写真
(18) フロリダの海岸で拾った貝ガラ(何故かしら大事にしていた。)
(19) 時計(家には大小沢山ある。時計の収集が好きだった。)
(20) クリスマス歌集のCD(毎年クリスマス時に聞く。誕生日にて彼女には最も大切な日。)
(21) 私が発行した本(彼女と過ごした夫婦生活の総集編)
(22) ピアノの形をしたオルゴール(曲はある愛の詩、私がプロポーズの時彼女に捧げたもの。)
これだけのモノを入れてやったら彼女は寂しくもなくまた心強く思うことだろう。息子の弁によると彼女は天国へ行ったらGPSになると言う。そうしたら何でも見えるようになるからこれで十分だろうと言った。と同時に「これからはいままでよりチョッときつくなるなあ?!何処で何をやっていてもママに見られてしまうから、もういい加減なことや悪さは出来ない、真面目に一生懸命に生きないとね!」 そう言って顔を引き締めた彼の表情がとても印象的であった。